Philips Pavilion 1958
双曲放物面(PH)の建築
電子詩とそれを入れるビンとコルビュジエは言った。
電子詩とは約8分間の音楽と映像が複合した作品のこと。このときクセナキスも「コンクレPH」という間奏曲を作曲 8分間の電子詩と二分間の間奏曲は、ちょうど鑑賞時間と観客入れ替えの一サイクル分 になっていた。
ル・コルビュジエはクセナキスの音楽的な素養や数学的なセンスを評価して、 ラ・トゥーレットの窓において、マリオン(垂直材)を使いながら、 モデュロールに基づく音楽的な割り付けをするように依頼している。 そこでクセナキスは、自身が作曲した「メタスタシス」のリズムを用いて、 ピッチがうねるように変化していく、窓の分割を行う。
メタスタシス」という楽曲は、多様なグリッサンドの連続面とピチカート の不連続面から構成される。
・グリッサンド...音程の上昇や下降を連続的に行い、不連続だった12音階を 繋ぐ奏法 滑らせるように流れるように音を上げ下げする
・ピチカート...バイオリン等の擦弦(さつげん)楽器の弦を指で弾いて音を 出す技法
バイオリンなどの弦楽器では指の動きによって音をなめらかに変化させられるが、 トランペットなどの管楽器ではほぼ不可能である。 変化が複雑になればコンピュータなしには正確な演奏は無理だろう。 ただし、単位時間あたりの音程の変化が一様となる ようなグリッサンドであれば、一般的な記譜法で表現出来る。
この曲は五線譜だけでなく、グラフ上にも書き記された。一般的な五線譜に 記譜された音はばらばらな点であり、一つの音は同じ音程でしか連続しない。 これをY軸を音の周波数(音高)とし、X軸を時間とするグラフに記述すれば、 一定ののびる直線となる。「メタスタシス」の異なるグリッサンドは、グラ フを活用した楽譜の場合、傾いた一本の直線として記述される。ゆえに、 「メタスタシス」の異なるグリッサンドの組み合わせは、グラフにおいては 直線が集積しつつ、全体では双曲放物面のような形を示す。それはあたかも フィリップス館の立面図、あるいは平面図のようにも見える。
よって特殊な楽譜が建築の図面と置き換え可能となっている。